6月19日は父の日ですね。皆さんは父の日をどんな風に過ごす予定でしょうか。プレゼントもいいですが、お父さんと映画を一緒に見ながら時間をゆっくり過ごすのも素敵ですよね。
そこで今回は、父の日 おすすめ映画「父と暮らせば」をご紹介します。2004年に公開された映画ですが、父親の愛情に胸が熱くなると今でも根強く人気があります。ひょうきんなお父さんとは裏腹に、内容自体はとても深く、考えさせる映画です。観る人によって受け取り方が違うため、映画を観た後に家族で感想を言い合うのも面白いですよ。
父の日 おすすめ映画「父と暮らせば」
作品情報
- 製作年:2004年
- 上映時間:99分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、戦争
- 監督:黒木和雄
- 脚本:井上ひさし
- キャスト:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信
あらすじ
舞台は原爆投下から3年後、1948年の広島。原爆で父を亡くした美津江(宮沢りえ)は、自分だけが生き残ってしまった現実に苦しみながら、図書館員として働いていました。やがて、図書館で木下(浅野忠信)という青年と出会い、恋心を抱きますが「自分に幸せになる権利はない」といつものように自分の気持ちを押し殺します。一人だけ生き残った負い目からくる葛藤は、美津江を幸せから遠ざけていきますが、見かねた父・竹造(原田芳雄)が幽霊となって美津江の前に現れます。父は心を閉ざしてしまった娘の応援団長として、娘を絶望から救いだしていくのでした。
「父と暮らせば」のみどころ
宮沢りえさん、原田芳雄さんの名演技
登場人物は宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信と全員が実力派の名優。特に、宮沢りえと原田芳雄の芝居は圧巻です。この映画の大部分は主人公の宮沢りえと父親の原田芳雄の会話で成り立っていて、まるで舞台劇のようなストーリーになっています。
宮沢りえさんの演技には透明感があり、派手さのない品のある佇まいで見る者をすっと物語へと引き込みます。これこそ圧倒的な演技力がなしえる技といえるのではないでしょうか。
また、無骨な声ながらも優しさを纏う原田芳雄さんのしゃべり方はどこか人間臭く、親近感がわいてきます。物語自体は重たいテーマですが、コミカルで、時折見せるもの悲しい原田芳雄さんの演技は感情移入しやすく、戦争映画が苦手な方でも見やすい映画になっていました。
生き残った者の心の傷
この作品では、被爆し生き残った人々の言葉にならない罪悪感が表現されていました。原爆で大切な人を失い、自分だけが生き残ってしまった美津江は
「私は幸せなっちゃいけんのじゃ」
「生きとるのが申し訳のうてならん」
と自分を戒めます。残された者には「生き残ってしまった罪悪感」があり、ずっと自分を追い詰める毎日を送っているのでしょう。大切な者を亡くした美津江はきっと、自分を責め続けることでしか生きていく意味を見出せなかったのではないでしょうか。
原作者の井上ひさしさんが被爆者の言葉をひろい集めて執筆された「父と暮らせば」には、リアルがあり、セリフの一つ一つに計り知れない重みを感じます。
それでも生きていく意味
原爆で死んでしまった竹造は、「不幸」という殻に閉じこもる娘を心配し、幽霊となってまで美津江を励ましますが、美津江は頑なに幸せになることを拒みつづけます。しかし
「わしの分まで生きてちょんだいよー」
という竹造の最期のセリフによって、美津江は「生きる」ことに意味を見出します。この映画では、手が届きそうな幸せをあえて手放していくことで軽くなる「罪の意識」と幸せになりたいという「人間としての欲求」との葛藤が娘と父の会話で描かれていますが、その答えとして
- 生き残ることは「悪」ではない
- 悲しみを背負い続けることは「幸せを手放すこと」ではない
- 生き続けて幸せになりなさい
といったメッセージを映画の端々で発信しているように思います。
最後に
今回は、「父と暮らせば」のキャストなど作品情報やあらすじ・みどころをご紹介いたしました。「父と暮らせば」では、子を想う父親の愛情に気づかされます。大切な人を失ったとき、人は悲しみという沼から抜け出せず、ずっとその場所にとどまってしまうものです。悲しみが深ければ深いほど、絶望の淵にたたされ前を向くことができなくなります。しかし、亡くなった人は残された者の不幸を望んでいるわけではありません。きっと、見届けることができなかった「その人の幸せ」を、亡くなってもなお願っているのではないでしょうか。
本作は、書籍も人気があるのですが、宮沢りえさんと原田芳雄さんの演技力で再現された映画の方が心に残るように思います。だからこそ、この映画は父の日 おすすめの作品です。ぜひこの機会に鑑賞してみてくださいね。